企業の資金繰りを円滑に行う手段として、自社の流動資産を活用する手段として注目されているのが「ABL」と「ファクタリング」です。
どちらも売掛債権などの流動資産を活用して資金を確保する方法ですが、その仕組みや特徴は大きく異なります。
本記事では、ABLとファクタリングの違いについて解説します。特徴やメリット・デメリットについても紹介しますので、自社の流動資産を活用した資金調達を検討する事業者は参考にしてください。
ABLとは?
ABLは流動資産を担保とする融資
ABL(Asset Based Lending)は、売掛債権担保融資のことで、売掛金や在庫など、企業が保有する「流動資産」を担保に資金を借り入れる融資手法です。
不動産を保有していなくても、日々の営業活動から生じる資産を担保に資金調達が可能です。担保となる資産は流動性が高く、金融機関は定期的に資産価値をモニタリングし、評価額に応じて融資限度額が設定されます。
不動産担保や個人保証に依存しない、新たな資金調達手段として注目されています。
ABLの仕組み
ABLの仕組みは以下のようなケースが一般的です。
- 担保となる資産の選定
- 金融機関にABL融資の相談
- 金融機関による評価および審査
- 金融機関による融資金額の提示
- 契約締結および融資の実行
ABLを利用して資金調達を検討する企業は、どの売掛債権や在庫などを担保として差し出すかを検討し、選定された担保で融資が受けられるかどうかを金融機関に相談します。
金融機関は、選定された流動資産の資産価値や評価額などを審査し、融資枠を決定し金融機関はその旨を企業に伝えます。企業が承諾すると、契約を結び、融資の実行。
融資後も担保資産の変動や回収状況を定期的に確認し、必要に応じて貸出枠を見直します。
ABLの特徴
ABLの特徴としては、融資であるため申込企業の信用力が必要である点、および手持ち不動産がなくても融資実行が可能な点があります。
融資であるため債務者の信用力が必要
ABLは、流動資産を担保とする融資です。そのため、申込企業である債務者の信用力がなければ融資が受けられない場合があります。
金融機関は審査において、担保資産の価値に加え、企業の返済能力やキャッシュフロー、経営者の信頼性も重視するのが一般的です。
たとえ高い担保価値の流動資産であっても、過去の延滞や財務の不安定さがある場合は融資が認められないこともあります。
手持ち不動産がなくても融資実行が可能
これまでの融資は、担保となる不動産がないと、融資が受けられないケースがありました。しかしABLは、売掛債権や在庫を担保として利用できます。
所有不動産がなく、担保として差し出す資産がない企業であっても、ABLを利用することで資金調達が可能となり、キャッシュフローの安定が見込まれます。
ABLのメリット・デメリット
ここでは、ABLのメリットおよびデメリットについて触れておきます。
メリット
ABLのメリットとして以下の3点があります。
ABLのメリット
売掛債権のほか在庫資産も担保評価の対象となる
金融機関との関係強化につながる
ファクタリングよりもコスト面で有利である
売掛債権のほか在庫資産も担保評価の対象となる
ABLでは、売掛債権だけでなく在庫や仕掛品など、複数の流動資産を組み合わせて担保設定できます。これにより、売掛金比率が低い業種でも資金調達が可能です。
たとえば製造業では、完成品や原材料の在庫が評価対象にできるため、経営資源を資金化しやすくなります。担保範囲が広いことで、業種や企業規模を問わず柔軟に活用できるのがABLの特長です。
金融機関との信頼関係の強化につながる
ABLでは、担保資産の状況を金融機関へ定期的に報告することが必要です。企業は経営実態や資産運用が透明化されることで、取引金融機関における理解が深まります。
結果として、将来的な融資相談や条件交渉がスムーズになりやすく、信頼関係の強化につながります。
ファクタリングよりも調達コスト面で有利である
ABLは融資契約であるため、金利の支払いが発生します。資金調達にかかるコストを比較すると、融資の場合、年2〜8%前後の金利が必要です。
一方、ファクタリング手数料は取引金額の2〜18%近くかかることもあるため、資金調達コストを大幅に抑えられるケースが多いです。
デメリット
一方で、ABLのデメリットとして以下の点が挙げられます。
ABLのデメリット
資金化までのプロセスに一定の時間が必要
必要な手続きが多い
自社の信用状態によっては審査が厳しくなる
資金化までのプロセスに一定の時間が必要
ABLでは、担保資産の評価や登記手続き、契約締結など、資金化までのプロセスに一定の時間がかかります。特に、売掛債権や在庫の内容確認、担保価値の算定には時間を要するため、融資実行まで3週間〜1か月程度かかるケースもあります。
急な資金ニーズには、ABLは不向きといえるかもしれません。
必要な手続きが多い
ABLは、担保資産の特定・登記・評価・報告といった手続きを要します。売掛金の回収状況や在庫数量の変動を定期的に報告する必要があります。
ABLは必要な手続きが多いため、社内での会計・管理体制が整っていない企業には負担が大きく感じられるかもしれません。
自社の信用状態によっては審査が厳しくなる
ABLは融資であるため、申込企業の信用状況によっては審査が厳しくなる恐れがあります。金融機関は、担保価値に加え、企業の財務健全性や経営姿勢、キャッシュフローを総合的に判断します。
赤字決算や債務超過など決算内容が芳しくない場合、担保が十分でも審査に通らないことがあるので注意が必要です。
ファクタリングとは?
ABL同様、売掛債権を利用した資金調達方法としてファクタリングがあります。
以下では、ファクタリングの仕組みや特徴について解説します。
売掛債権の譲渡による資金調達方法
ファクタリングとは、企業が保有する売掛債権をファクタリング会社へ譲渡し、期日前に現金化が可能な資金調達方法です。
売掛債権を譲渡することで資金を得る仕組みであるため、ファクタリングは資金繰りの改善に役立ちます。売掛先からの入金を待たずに資金を確保できるため、仕入や人件費などの支払いに柔軟に対応できます。
ファクタリングの仕組み
ファクタリングの仕組みとして、「2社間ファクタリング」「3社間ファクタリング」の2つの形態があります。
2社間ファクタリング
2社間ファクタリングは、利用企業とファクタリング会社のみで契約が成立する形態です。売掛先への通知が不要なため、取引先との関係を保ったまま資金化できるのが特徴です。ファクタリング会社によっては、即日現金化も見込めます。
一方で、ファクタリング会社は直接売掛債権が入金されないため、未回収リスクが3社間ファクタリングより高いため、手数料が高めに設定されることが多いです。2社間ファクタリングの場合、手数料は8%~18%が相場とされています。
3社間ファクタリング
3社間ファクタリングは、利用企業・ファクタリング会社・売掛先の三者で契約を交わす形態です。売掛先の同意を得たうえで債権譲渡を行うのが特徴です。
売掛先より直接ファクタリング会社へ支払われるため、ファクタリング会社にとって未回収リスクが低く、手数料も2%〜9%が相場とされ、2社間ファクタリングより低目です。
ただし、売掛先の了承を得る必要があるため、資金化までに時間を要します。
ファクタリングの特徴
ファクタリングの特徴として、以下の3点があります。
ファクタリングの特徴
償還請求権がない
債務ではない
最短即日での現金化が可能
それぞれ 順を追って解説します。
償還請求権がない
ファクタリングは、原則償還請求権のない資金調達方法です。万が一売掛先が倒産した場合でも、利用企業は売掛先に代わって入金することがありません。
債権譲渡により、未回収リスクも移転するためです。利用企業にとって、貸倒損失を回避できる特徴があります。
債務ではない
ファクタリングは融資ではなく、資産の譲渡による資金調達方法です。貸借対照表上の負債が増えることがないので、財務体質を悪化させることなく資金調達が行えます。
財務の健全性を維持しながらキャッシュフローを改善できる点は、ファクタリングの特徴といえます。
最短即日での現金化が可能
ファクタリング会社の中には、最短で申込当日に資金化が可能なところがある点も特徴としてあります。必要書類も融資に比べ少ないため、揃えるのに手間がかからない点も魅力的です。
特にオンライン完結型のサービスを提供しているファクタリング会社であれば、申込みから契約までインターネットででき、来店不要で資金調達が見込まれます。
ファクタリングのメリット・デメリット
ファクタリングには、どのようなメリットやデメリットがあるのかについて、ここで整理します。
メリット
ファクタリングを利用するメリットとして次の点があります。
ファクタリングのメリット
素早い資金調達が可能
利用者の信用力はそれほど問われない
担保・保証人が不要
素早い資金調達が可能
ファクタリングのメリットとして、素早く資金調達できる点があります。特に2社間ファクタリングの場合、売掛先への通知が不要なため、最短で申込当日に資金が入金されるケースもあります。
急な資金ニーズが発生した場合、安心して資金調達が可能であるといえるでしょう。
利用者の信用力はそれほど問われない
ファクタリングのメリットのひとつとして、利用する企業の信用力が審査でそれほど問われない点があります。
融資の場合、申込企業の信用力が審査の中心であり、経営状況が思わしくない場合、審査に通らない恐れがあります。
ファクタリングの場合、審査のメインは売掛先の経営状況等の信用力であるため、申込企業の経営状況が審査に影響を及ぼさない点もメリットといえるでしょう。
担保・保証人が不要
ファクタリングは売掛債権を譲渡する取引であるため、融資のように不動産担保や経営者保証の必要がありません。
個人資産を守りながら資金を確保できるため、ファクタリングは、自社の流動資産を活用して資金を得る方法という点で、経営リスクを最小限に抑えることが期待できます。
デメリット
一方、ファクタリングのデメリットとして次の3点がありますので、それぞれ解説します。
ファクタリングのデメリット
手数料が必要
売掛先の経営状況によっては利用できない場合がある
過度な利用はキャッシュフローの悪化を招く恐れがある
手数料が必要
ファクタリングの利用時には、手数料が発生します。取引形態により手数料が異なり、2社間ファクタリングの場合の手数料は8%~18%、3社間ファクタリングでは2%〜9%が相場とされています。
売掛先の経営状況によっては利用できない場合がある
ファクタリングの審査は、売掛先の経営状況を優先的に判断材料として審査するのが一般的とされています。売掛先の財務状況が悪化している場合や、支払い遅延の実績がある場合、利用できない恐れがあります。
ファクタリングを利用する場合、売掛先の経営状況に問題のない債権を譲渡するようにしましょう。
過度な利用はキャッシュフローの悪化を招く恐れがある
ファクタリングを過度に利用すると、毎回手数料が積み重なることで、キャッシュフローの悪化を招く恐れがあります。
売掛債権を前倒しで現金化することは、将来の入金を先取りすることに等しく、次回以降の資金余力を減らす結果にもなりかねません。
ファクタリングを利用する場合、一時的な資金対策としての利用に留めておくほうがいいでしょう。
ABLとファクタリングの違いは?
同じ流動資産を利用して資金調達方法であるABLとファクタリングですが、双方においてどのような違いがあるのかについて解説します。主な違いとして以下の6点があるのでそれぞれ解説します。
ABLとファクタリングの違い
融資か債権の譲渡かの違い
信用力が重視される企業の違い
売掛先からの入金があるかないかの対応の違い
調達可能な金額の違い
スピードの違い
利息・手数料の相場の違い
融資か債権の譲渡かの違い
ABLは、企業が保有する売掛債権や在庫などを担保に、金融機関から資金を借りる融資です。融資なので負債が増加し、返済義務が発生します。
一方、ファクタリングは売掛債権の譲渡であるため、負債が増加しません。
万が一、売掛先が倒産等、未回収リスクが発生した場合、貸倒損失はファクタリング会社が被る仕組みとなっています。
信用力が重視される企業の違い
ABLは融資であるため、借り手企業の信用力や返済能力が重視されます。金融機関は、融資した資金を確実に回収できるかを見極めるためです。
ファクタリングの場合、利用企業の信用力より、売掛先の信用力が判断基準になります。売掛債権の回収が可能であるかを審査するためです。そのため、利用企業が赤字や債務超過といった場合でも、審査に通ることがあります。
売掛先からの入金があるかないかの対応の違い
売掛先から入金がない場合、ABLは融資契約であるため、売掛先が倒産して債権を回収できない場合でも、借入金の返済義務は残ります。
一方、ファクタリングでは償還請求権のないケースが多いため、売掛先が未回収となった場合、利用企業が返済を求められることはありません。
調達可能な金額の違い
ABLは、売掛債権だけでなく在庫なども担保とすることが可能です。そのため、融資額は総資産価値の50〜80%程度まで設定されることが多く、比較的まとまった金額を調達できます。
ファクタリングの場合、債権譲渡であるので、売掛債権以上の金額は調達できない仕組みです。比較的まとまった資金が必要な場合、ABLの利用がおすすめです。
スピードの違い
ABLは担保資産の評価や契約、登記など複数の手続きが必要なため、融資の実行まで3〜4週間かかるのが一般的です。
ファクタリングの場合、必要書類の確認と債権内容の審査のみで完結するため、最短即日で資金化が可能です。
利息・手数料の相場の違い
ABLのコストは利息として発生します。金融機関により異なりますが、年利3%〜15%程度が相場です。
ファクタリングによる資金調達の場合、手数料が調達コストとして発生します。
一般的に2社間ファクタリングの場合の手数料は8%~18%、3社間ファクタリングでは2%〜9%が相場です。
まとめ
ABLとファクタリングはいずれも、企業が保有する売掛債権などの流動資産を活用して資金を調達する手段です。
ABLは、融資であり返済義務が伴うのに対し、ファクタリングは債権の譲渡であり返済不要という大きな違いがあります。
短期の資金繰り改善や即時性を重視するならファクタリング、安定した運転資金の確保を目的とするならABLが適しています。
自社の信用力、資金需要の緊急度、コスト負担の許容範囲を見極め、最も合理的な方法を選択することが重要といえるでしょう。