ファクタリングは、売掛金を早期に現金化できる有効な資金調達方法です。
売掛金が入金されると、利用企業は速やかにファクタリング会社に支払いを行わなければなりません。しかしながら利用企業の中には、ファクタリング資金を支払えないところも存在します。
ファクタリング資金が支払えない要因として、売掛先の資金繰り悪化や利用企業の資金の使い込み、過大な手数料負担および支払えない売掛債権の譲渡があります。
ファクタリング資金を支払えないまま放置した場合、債権譲渡の通知や損害賠償請求、さらには刑事責任を問われるリスクも生じるので注意が必要です。
本記事では、ファクタリング資金が支払えなくなる主な原因と、その際に起こり得るトラブル、そして支払い不能を防ぐための対処法について解説します。
ファクタリングした資金が支払えなくなる要因とは
ファクタリングとは、自社の売掛債権をファクタリング会社へ譲渡し、早期に現金化する資金調達の手法です。
売掛先から入金があった際には、利用企業がその資金をファクタリング会社へ支払う必要があります。しかし現実には、期日どおりに支払いができないケースも存在します。
なぜそのような事態が起こるのでしょうか。
以下では、ファクタリングした資金を支払えなくなる主な要因について解説します。
売掛先の資金繰りが厳しくて支払えない
ファクタリング資金が支払えない要因のひとつが、売掛先の資金繰り悪化です。
売掛金の入金が遅延すれば、ファクタリングを利用した企業は支払いができなくなります。
特に中小企業間の取引では、1社の遅延が連鎖的に資金繰りを圧迫しかねません。
ファクタリングは早期に現金化が可能な資金調達手段ですが、取引先依存度が高い場合、1社の資金繰りの悪化でも、支払いが厳しくなるリスクも高くなる恐れがあります。
利用企業が使い込みをして支払えない
売掛先から入金された資金を、本来のファクタリング会社への支払目的以外に流用してしまうと、支払不能に陥る恐れがあります。
特に、2社間ファクタリングでは、売掛先からの入金を一旦利用企業が受け取る仕組みです。そのため、他の支払いに充ててしまうといった、資金の使い込みが起こりやすくなります。
これは単なる資金管理ミスでは済まず、刑事責任に問われる恐れもあります。
手数料が高くて支払えない
ファクタリングは審査が柔軟である一方、手数料が高くなる傾向があります。
特に2社間ファクタリングでは、20%近くの手数料が発生するケースも珍しくありません。
資金調達時に手数料は差し引かれて入金されるため、実際の売掛金より手元に残る資金が少なくなります。売掛金が入金されるまでの間に、事業資金が支払われるため、売掛金回収後に返済資金が不足する事態が発生します。
また、ファクタリングの継続的な利用により、手数料負担が重荷となり、資金繰りがかえって悪化させることも考えられます。
回収できない債権の譲渡により支払えない
回収できない債権の譲渡をするために、支払えないケースがあります。支払不能となる事例として「二重譲渡」「架空債権」があります。
二重譲渡とは、同じ売掛債権を複数のファクタリング会社に譲渡する行為です。二重譲渡を行った場合、2社目以降の支払いは厳しくなります。二重譲渡が発覚すれば、詐欺罪を問われることとなります。
架空債権とは、実際の売掛債権を水増ししたり、存在しない取引を売掛債権としてでっち上げたりすることです。二重譲渡同様、発覚すれば詐欺罪の対象となり、企業の信用は失墜するので、絶対に行ってはいけません。
ファクタリングした資金を支払わない場合どうなるのか
万が一、ファクタリングにより調達した資金が支払えない場合、どのようなことが起こるのでしょうか。
2社間ファクタリングでも売掛先に通知される
2社間ファクタリングは、利用企業とファクタリング会社との間の契約で、売掛先に知られずに利用できる点が特徴です。
しかし、利用企業が支払いを行わない場合、事情が変わります。ファクタリング会社は債権保全のため、売掛先に債権譲渡通知を送付します。
債権譲渡通知が送付されることで、売掛先にファクタリングの利用が知られてしまい、信用低下や、場合によっては取引停止につながりかねません。
刑事事件に発展する恐れがある
支払い不能の背景に「意図的な使い込み」や「虚偽の債権譲渡」がある場合、単なる契約違反にとどまらず、刑事事件に発展するリスクがあります。
主な犯罪として「横領罪」「詐欺罪」があります。
横領罪
譲渡済みの売掛金を受け取り、ファクタリング会社へ支払わず、自社の支払い等に充当した場合、「業務上横領罪」に該当する可能性があります。
債権譲渡契約が成立した後に、売掛先より入金された資金は、利用企業のものでなく、債権譲渡されたファクタリング会社のものであるからです。
横領罪は、5年以下の拘禁刑です。しかしファクタリング資金を横領した場合、業務上横領罪となり、10年以下の拘禁刑になります。
詐欺罪
存在しない売掛金や架空請求書をもとにファクタリング契約を結び、資金をだまし取った場合は「詐欺罪」が成立します。
詐欺罪は他人を欺いて財産的利益を得る行為です。ファクタリングにより資金を騙し取ったことが立証されれば、10年以下の拘禁刑に処せられます。
損害賠償請求されることもあり得る
支払いを怠れば、ファクタリング会社は契約違反として損害賠償を請求することがあります。ファクタリングは金銭消費貸借契約ではなく債権譲渡契約ですが、契約不履行による損害(未回収分や遅延損害金)を補填する法的請求は可能です。
特に2社間取引では、売掛先からの入金を受け取った利用企業に対し、返済義務を履行しなかったとして民事訴訟を起こすケースもあります。
預金口座や資産の差し押さえの恐れがある
ファクタリング資金を支払わない場合、預金口座や資産の差し押さえの恐れがあります。
ファクタリング会社は、支払われていない利用企業に対して、督促を行います。にもかかわらず、支払いが行われない場合、ファクタリング会社は裁判所に訴訟を起こします。
裁判で支払い義務が認められると、ファクタリング会社は強制執行手続きにより、利用企業の預金口座・売掛金・不動産・車両などを差し押さえることが可能です。特に、銀行口座が凍結された場合、事業活動が停止するリスクが極めて高くなります。
支払えない場合の分割や先延ばしはできるのか?
ファクタリングで資金調達した資金が支払えない場合、さまざまな解決方法を検討することになるでしょう。
支払えない場合、次の方法で解決できないかと模索する利用企業もあるかもしれません。
分割による支払い
支払いの先延ばし
しかし、いずれの方法も対応できません。以下では、その理由について解説します。
分割による支払い
分割による支払いは、ファクタリングには対応していません。ファクタリングは「債権譲渡契約」であり、基本的に一括返済が前提だからです。
ファクタリング会社に対して、分割での支払いは「貸金」に該当します。そのため、貸金業を営むためには、貸金業者登録することが必要です。
貸金業登録を行っているファクタリング会社であれば問題ありません。しかし、ファクタリング会社の多くは、貸金業登録を行っていないのが現状です。
支払いの先延ばし
支払い期日の先延ばしも、原則として認められていません。入金の遅延が発生すれば、利息が発生するためです。
多くのファクタリング会社は、貸金業登録を行っていないため利息を受け取れません。
とはいえ、ファクタリング会社の中には、誠実な説明と具体的な支払予定を提示すれば、一時的な猶予が認めてもらえるケースもあります。その場合、利用企業は、支払える根拠を示して説明する必要があります。
支払いできない状況に陥らないための対処法
ファクタリングを利用したものの、支払いできない状況に陥らないようにするための対処法として、以下の方法があります。
- 資金繰りの改善
- 手数料の低いファクタリング会社への乗り換え
- 3社間ファクタリングの利用
- 他の資金調達方法の検討
それぞれ、順を追って説明します。
資金繰りの改善
支払い不能に陥らないように改善すべき点は、資金繰りの見直しです。売掛金の回収遅延や回転期間の長期化、および買掛債務の短い支払期間などにより、資金ショートを引き起こします。
具体的な施策として、売掛債権の早期の回収や、支払期日を可能な限り延ばす点があります。在庫の一掃や、遊休資産の売却などもまた、手元資金の増加につながり、資金繰りの改善が可能です。
手数料の低いファクタリング会社への乗り換え
高い手数料を支払っていると、手元に残る資金が少なくなるため、キャッシュフローや収益を圧迫します。
手数料の低いファクタリング会社を利用すれば、手元の資金が増え、資金繰りの改善が図れます。結果として、支払不能といった事態を未然に防ぐことが可能です。
複数社の相見積もりにより比較を行い、手数料の相場が把握できることでファクタリング会社の乗り換えは検討の余地があるといえるでしょう。
3社間ファクタリングの利用
3社間ファクタリングの利用も、支払いできない状況に陥らないための対処法といえます。
3社間ファクタリングは、利用企業・売掛先・ファクタリング会社での契約です。売掛先が直接ファクタリング会社に入金する点が特徴です。
利用企業は、売掛金の回収やファクタリング会社への支払いが不要となり、支払いに関しての心配がなくなります。
ただし、3社間ファクタリングは、売掛先への同意が必要で、売掛先にファクタリングの利用が知られる点にも留意する必要があるでしょう。
他の資金調達方法の検討
支払不能とならない状況に陥らないためには、他の資金調達方法を検討することも重要です。
具体例として、銀行融資や信用保証協会付融資、補助金・助成金などがあります。
複数の選択肢を持っておくことで、急な資金ニーズの発生や、売掛金の回収遅延に対しても柔軟な対応が可能です。
各資金調達方法には、コストや返済負担、利用条件といった違いがあります。それらを整理・比較したうえで、自社の状況や目的に合う方法を見極めることが重要です。
まとめ
ファクタリング資金を支払えなくなる背景には、売掛先の資金繰りの悪化や、利用企業の使い込みなど、さまざまな要因があります。支払いを怠れば、売掛先への通知による信用低下や損害賠償請求、あるいは刑事事件に発展する恐れもあるので注意しましょう。
支払えない状況にならないための対処法として、資金繰りの改善や手数料の低いファクタリング会社への乗り換えがあります。3社間ファクタリングの利用や他の資金調達方法の検討等も有効な手段です。
ファクタリングは便利な資金調達手段ですが、支払い不能に陥れば信頼を大きく損ないます。リスクを十分理解したうえで、計画的に活用することが求められます。



