中小企業の資金繰りでは、受注から入金までのタイムラグが大きな課題となりやすいです。
特に建設業・製造業のように先行して原価が発生する事業者は、資金ショートのリスクに常に直面しています。
このような状況の中で注目されているのが「注文書ファクタリング」です。
注文書をもとに、納品前の段階で資金調達ができるため、注文書ファクタリングは新規案件の受注や仕入資金の確保に役立ちます。
本記事では、注文書ファクタリングの仕組みや請求書ファクタリングとの違いについて解説します。注文書ファクタリングに適している事業者や業者選びのポイントについてもあわせて紹介します。
注文書ファクタリングとは?
注文書ファクタリングとは、取引先から発行された注文書をもとに、納品や請求書を発行する前の段階で資金調達が可能なサービスです。
通常のファクタリングは、売掛金が確定し請求書を発行してから現金化します。しかし、注文書ファクタリングでは、受注が確定後すぐにファクタリング会社へ注文書を提出することで、現金化が可能です。
仕入・人件費等の先行コストがかかる建設業や製造業などでは、資金繰り改善の選択肢として注目されています。
注文書ファクタリングと請求書ファクタリングの違い
ファクタリングは通常、請求書ファクタリングを指します。しかし、実際には注文書ファクタリングという手法も存在しており、両者にはいくつか明確な違いがあります。ここでは、主な相違点である以下の3点について見ていきましょう。
- 買取対象
- 手数料
- 資金化できるタイミング
買取対象
注文書ファクタリングと請求書ファクタリングの大きな違いは、ファクタリング会社が買い取る対象となる書類です。
請求書ファクタリングは、納品後に発生する「売掛金(請求書)」を対象としています。
買取対象が、自社が発行しすでに対価が確定している請求書であるため、買い取るリスクが低いです。
一方、注文書ファクタリングでは、取引先が発行した「注文書(発注書)」を対象に資金化を行います。売掛金がまだ発生していない段階での書類をファクタリング会社が買い取ることで資金調達が可能です。
手数料
手数料についても両者には明確な違いがあります。
請求書ファクタリングは売掛金が確定しているため、リスクが低く、手数料は一般的に2〜10%程度が相場です。
一方、注文書ファクタリングは納品前で売掛金が未確定の段階で資金を提供するため、リスクが高く、手数料は10〜20%程度になるケースが多いとされています。
注文書の内容や取引先の信用状況、および納品までの期間によって手数料が変動するのも特徴です。
資金化できるタイミング
資金化のタイミングにも大きな違いが見られます。
請求書ファクタリングは、商品の納品またはサービスの提供が完了し、請求書を発行した後に初めて資金化できます。売上が確定した後の「後払い型」の資金調達です。
一方、注文書ファクタリングは受注段階で資金を受け取れるため「前倒し型」の資金調達となります。
注文書ファクタリングのメリット
注文書ファクタリングを利用するにあたってのメリットとして、次の3点があります。
- 受注段階で資金調達が可能
- 売掛金の未回収リスクを回避できる
- ノンリコース(償還請求権がない)契約である
それぞれ順を追って解説します。
受注段階で資金調達が可能
注文書ファクタリングの最大のメリットは、受注段階で資金を調達できる点です。
通常の請求書ファクタリングは、納品後にしか利用できませんが、注文書ファクタリングでは発注書があれば資金を先行して受け取ることが可能です。
これにより、仕入費用・外注費・人件費といった先行コストがカバーでき、原価が先に発生する業種で大きな効果を発揮します。
売掛金の未回収リスクを回避できる
売掛金の未回収リスクが回避できる点も、注文書ファクタリングを利用するメリットです。
通常、企業は納品してから入金までの間、取引先の倒産リスクを抱えています。しかし、注文書の段階でファクタリング会社へ債権を譲渡すれば、将来の売掛金はファクタリング会社が管理することになります。
取引先が万が一支払不能となっても、自社が損失を負う可能性は低くなり、資金繰りの安定化につながるだけでなく、貸倒リスクからの回避も可能です。
ノンリコース(償還請求権がない)契約である
注文書ファクタリングは、多くの場合ノンリコース契約(償還請求権なし)です。
取引先が倒産などにより支払不能となっても、利用企業がファクタリング会社に支払う義務を負わない契約形態です。
通常の融資やリコース型契約では、返済義務が残ります。しかし、ノンリコース契約では債権リスクがファクタリング会社に移転するため、企業側の財務負担を大幅に軽減できます。
注文書ファクタリングのデメリット
注文書ファクタリング会社を利用する場合、注意しなければならないことが3点あるので、以下で紹介します。
- 請求書ファクタリングに比べて手数料が高め
- 請求書ファクタリングに比べて審査が厳しめ
- 注文書ファクタリングの取扱会社が少ない
請求書ファクタリングに比べて手数料が高め
注文書ファクタリングは、請求書ファクタリングに比べて手数料が高く設定される傾向があります。理由は、売掛金がまだ確定していない受注段階で資金を提供するため、ファクタリング会社が負うリスクが大きいからです。
一般的に、注文書ファクタリングの手数料は、請求書ファクタリングと比較して、2%~5%ほど割高となることが多いです。
請求書ファクタリングに比べて審査が厳しめ
注文書ファクタリングは、請求書が発行される前に資金を提供するため、審査が厳しくなる傾向があります。
ファクタリング会社は、発注内容の確実性や取引先の信用力、契約書の妥当性などを審査します。将来の売掛金が間違いなく発生するかを慎重に判断する必要があるためです。特に、納品前のトラブルやキャンセルの可能性がある取引ではリスクが高まります。
請求書ファクタリングと比較し、通過率が低くなる点は注文書ファクタリングのデメリットといえます。
注文書ファクタリングの取扱会社が少ない
注文書ファクタリングは、まだ市場規模が小さく、取り扱う会社が限定されている点もデメリットとしてあります。
請求書ファクタリングの提供会社は多数ありますが、注文書ファクタリングは将来債権を扱うためリスクが高く、対応できるファクタリング会社が少ないのが現状です。
また取扱会社によって、審査基準や手数料、契約形態が大きく異なるため、信頼性や実績を確認したうえで複数の取扱会社を比較検討する必要があります。
注文書ファクタリングの利用に向いている事業者
注文書ファクタリングは、一定の条件を満たす事業者にとって、資金繰りを大きく助ける手段となります。では、どのような事業者が特に利用に向いているのでしょうか。代表的な例は、次のとおりです。
- 入金サイトが長い事業者
- 大型受注が決まるものの前払い資金が手薄な事業者
- 季節(トレンド)性の高い商品を扱っている事業者
入金サイトが長い事業者
入金サイトが長い事業者は、注文書ファクタリングとの相性が非常に良いといえます。特に建設業、製造業、IT・システム開発業など請求から入金まで60〜120日以上かかる事業者では、運転資金不足が深刻化しやすくなりがちです。
注文書ファクタリングを活用することで、注文を受けた段階で資金を確保できるため、仕入・外注費・人件費などの支払いのタイミングと実際の入金のズレを解消できます。
また、資金ショートにより新規受注を断念するリスクも軽減され、売上拡大にもつながります。
大型受注が決まるものの前払い資金が手薄な事業者
大型案件を受注した際、仕入・材料費・外注費など先行して必要になる資金が確保できず、せっかくのチャンスを逃してしまう事業者は少なくありません。
注文書ファクタリングは、受注段階で資金を確保できるため、前払い資金が不足しやすい事業者に最適です。受注から納品までの期間が長い業種では、資金ショートを回避する手段となります。
また、銀行融資の審査に時間を要する場合にも、スピーディーに資金化できることから、つなぎ資金としても有効です。
季節(トレンド)性の高い商品を扱っている事業者
季節性やトレンド性の高い商品を扱う事業者は、繁忙期前にまとまった仕入資金を確保しなければなりません。
しかし、在庫回転のタイムラグや入金サイトの長さから、資金が一時的に不足するケースが発生します。
注文書ファクタリングを利用すれば、注文段階で必要な資金を確保でき、繁忙期に向けた在庫確保や生産体制の強化が可能になります。
また、トレンド商品ではスピードが勝負となるため、銀行融資を待たずに資金調達が可能です。特にアパレル・雑貨・食品など、需要が季節変動する業種にも注文書ファクタリングは向いています。
注文書ファクタリング会社の上手な選び方
注文書ファクタリング会社を選ぶ際は、信頼性と自社との相性を丁寧に見極めることが欠かせません。
特に、以下のポイントを確認しておくと、安全かつ有利に利用できるので、順を追って紹介します。
- これまでの注文書ファクタリングの取引実績および取引金額をチェックする
- 複数のファクタリング会社で相見積もりを取り判断する
- 償還請求権のないファクタリング会社を選ぶ
- 入金スピードの早い会社を選ぶ
これまでの注文書ファクタリングの取引実績および取引金額をチェックする
注文書ファクタリングを利用するにあたって、まずは実績を確認することが重要です。
注文書ファクタリングは請求書ファクタリングに比べ、将来債権を扱うためリスクが高く、専門的な審査能力が必要とされます。
対応可能な取扱金額や過去の成約件数、どの業種に強いかといった実績を事前に把握することで、安心して取引できる会社を選びやすくなります。
複数のファクタリング会社で相見積もりを取り判断する
注文書ファクタリングは、手数料・審査基準・入金スピードが会社ごとに大きく異なります。そのため、必ず複数社から見積もりを取り、条件を比較したうえで判断することが重要です。
特に注文書ファクタリングは手数料が10〜20%と高めに設定されるケースが多く、会社によって追加費用が発生する場合もあります。
相見積もりを行うことで、過度に割高な条件を避けられるだけでなく、自社の業種や資金繰り状況に最も合った会社を選ぶことも可能です。
償還請求権のないファクタリング会社を選ぶ
ファクタリング会社選びでは、償還請求権のない契約に対応しているかが大事な判断基準となります。
償還請求権がない契約であれば、取引先が倒産したり支払不能となったりした場合でも、取引先に代わってファクタリング会社へ支払う義務はありません。リスクをファクタリング会社が負担するため、資金繰りの安定性を確保できます。
入金スピードの早い会社を選ぶ
注文書ファクタリング会社選びの重要なポイントとして、入金のスピードがあります。注文書ファクタリングを利用する企業の多くは、仕入や外注費など差し迫った支払いに対応するため、早期の資金調達を必要としているからです。
最短即日〜2営業日で資金化できる会社もあれば、審査に数日以上かかる会社もあり、スピードは大きく異なります。
特に繁忙期や大型案件の前など、タイミングが資金繰りを左右するケースでは、スピーディーな審査体制を整えている会社を選ぶことが不可欠です。
まとめ
注文書ファクタリングは、受注段階で資金を確保できる点で、従来の請求書ファクタリングとは異なる特徴を持ちます。
先行費用が発生しやすい事業や、急な大型案件に対応したい企業にとって、注文書ファクタリング会社は有効な資金調達手段です。
一方で、手数料が高かったり、審査が厳しかったり、また取扱会社が少ないといったデメリットもあります。
そのため、実績や入金スピード、契約形態を比較し、自社に最適な事業者を選ぶことが不可欠といえます。
資金繰りの安定化と事業成長を両立するために、注文書ファクタリングを戦略的に活用していくことが重要です。



