近年、資金調達の選択肢として注目を集めているものにファクタリングがあります。
企業が利用する売掛金買取ファクタリングは、売掛金を譲渡することで期日前に資金を調達できる手法です。
一方で、売掛金買取ファクタリングと似た仕組みをうたう「給与ファクタリング」も存在し、給与債権を早期に現金化できるサービスとして広がりを見せています。
しかし、双方は同じ債権売却の形式を取りながらも、最高裁は給与ファクタリングについて、実質は貸付であり無登録業者が行えば違法と判断しました。この判決を受け、金融庁や各自治体も注意喚起を強めています。
本記事では、給与ファクタリングがなぜ違法と判断されたのか、その背景となる給与債権の法的性格、仕組みそして貸付と認定された根拠について解説します。
あわせて、悪質業者の見分け方についても紹介しますので、安全に資金調達を行うため参考にしてください。
給与ファクタリングとは
給与ファクタリングは、給与債権を保有する労働者が、ファクタリング会社に給与債権を買い取ってもらい早期に現金化が可能な資金調達方法です。
ここでは、買い取ってもらう給与債権に関しての法的な性格や給与ファクタリングの仕組みについて紹介します。
給与債権の法的性格
給与債権とは、労働者が勤務先に対して支払いを請求できる、給与を受け取る権利のことです。
労働基準法では、給料や手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものを「賃金」と定めています。
労働基準法では、賃金の支払いについて、以下の4つの原則がある点について解説します。
通貨払いの原則
賃金は原則として通貨で支払うことが義務付けられています。給与が労働者の生活維持のために最も確実な形で渡されるよう配慮された規定です。
現物支給などは例外的な場合を除き認められず、通貨による支払いが徹底されることで、労働者の権利が守られています。
直接払いの原則
給与は労働者本人に直接支払うことが原則とされています。他者に支払いを委ねて給与を支払うことは、中間搾取につながる恐れがあるため、労働者保護の観点から原則として認められていません。
全額払いの原則
給与は全額労働者に支払わなければなりません。労働者の生活資金を十分に確保する観点から、全額払いが原則とされています。
控除できる項目は社会保険料など法令で認められたものに限られています。それ以外の理由で給与が減額されることは認められていません。
毎月1回以上の定期払いの原則
給与は毎月1回以上、一定の期日に支払うことを原則とされています。
これは労働者の安定した生活を保障するためのものです。
給与ファクタリングのしくみ
給与ファクタリングによる資金調達方法の仕組みは以下の通りです。
- 労働者が勤務先に対して保有する給与債権をファクタリング会社へ買い取ってもらいます。
- ファクタリング会社は、買い取った給与債権から手数料を差し引いた金額を、個人の口座に資金交付します。
- 勤務先が労働者に給与を支払います。
- 給与を受け取った労働者は、ファクタリング会社に入金して、取引が完了します。
売掛金買取ファクタリングとは
ファクタリングは自社の資産を活用した資金調達方法で「アセットファイナンス」のひとつです。
特に売掛金買取ファクタリングは、手軽に資金調達が可能であるため、事業者の資金繰りに人気があります。
以下では売掛金買取ファクタリング会社の特徴や仕組みについて紹介します。
売掛金買取ファクタリングは債権譲渡により早期の現金化が可能な資金調達方法
売掛金買取ファクタリングは、事業者が保有する売掛債権を、ファクタリング会社に買い取ってもらい早期に現金化が可能な資金調達方法です。
一般的に言われている「ファクタリング」は、この売掛金買取を指します。
ファクタリングは融資とは異なり、資金調達にかかる時間が短いため、早期の現金化が可能です。なぜなら、審査の対象となるのは申込事業者ではなく売掛先だからです。売掛先の経営状況に問題がなければ、融資が厳しい事業者であっても利用できます。
資金繰りが不安定になりやすい事業者や、支払いサイトの長い業種においては、早期の資金確保に有効な選択肢としてファクタリングが用いられています。
売掛金買取ファクタリングの3つの特徴
近年利用が広がっている、売掛金買取ファクタリングの特徴として、以下の3点があります。
- 取引先の倒産による債権未回収リスクを防ぐ
- 赤字経営でも利用できる可能性がある
- 手数料が必要である
それぞれ順を追って紹介します。
取引先の倒産による債権未回収リスクを防ぐ
売掛金買取ファクタリングの特徴として、売掛先が倒産した際の未回収リスクを回避できる点があります。
特に償還請求権のないファクタリングでは、売掛先の倒産によって売掛金が回収不能になったとしても、利用事業者がファクタリング会社へ入金する必要はありません。
景気変動の影響を受けやすい業種や、売掛先の信用状況に不安がある場合において有効なリスクヘッジとなります。
赤字経営でも利用できる可能性がある
融資では、赤字決算や債務超過の場合、審査が通らないことが多くあります。しかし、売掛金買取ファクタリングでは、主な審査の対象は売掛先です。
そのため、売掛先の財務状況や信用力に問題なければ、赤字や債務超過の事業者でも、売掛先が堅実であれば利用できる可能性があります。
業績が一時的に悪化している企業や、創業間もない企業にとっても活用しやすい資金調達方法と言えます。
手数料が必要である
売掛金買取ファクタリングを利用する場合、手数料が必要です。
売掛金買取ファクタリングには、2つの取引形態があります。
事業者とファクタリング会社との間の「2社間ファクタリング」、売掛先を加えた「3社間ファクタリング」です。
2社間ファクタリングの場合の手数料は8%~18%、3社間ファクタリングでは2%~9%が相場とされています。
3社間ファクタリングの場合、売掛先が直接ファクタリング会社に入金するため、未回収リスクが低いため、2社間ファクタリングより手数料が低くなっています。
売掛金買取ファクタリングのしくみ
売掛金買取ファクタリングのしくみは以下の通りです。(2社間ファクタリングの場合)
- ファクタリングの利用をする場合、事業者はファクタリング会社に請求書や契約書など、審査に必要な売掛先との取引内容を示す必要書類をファクタリング会社へ送付します。
- ファクタリング会社は、事業者から提出された必要書類をもとに審査を行います。
- 審査が通過すると、ファクタリング会社は事業者から売掛金を買い取り、手数料を差し引いた金額を申込事業者の口座に入金します。
- 売掛金の期日に、売掛先は入金を行います。売上代金を受け取った申込事業者は、ファクタリング会社へ入金を行い、取引が完了します。
給与ファクタリングが違法と判断された理由
給与ファクタリングおよび売掛金買取ファクタリングの概略について解説しました。
双方とも、債権を譲渡して早期の資金調達が可能な点は共通です。
しかし、給与ファクタリングは、債権の譲渡でなく貸付という判決が下されています。
以下では、どうして給与ファクタリングが違法であるのかについて解説します。
判例
2023年2月20日、最高裁判所は、貸金業登録を受けずに「給与ファクタリング」を名目として金銭を交付していた業者に対し、「給与ファクタリングと称する取引は、実質的に顧客からの返済を予定した貸付である」と判断しました。
被告業者は「給与債権の譲渡にすぎず、貸金業には該当しない」と反論しましたが、最高裁はその主張を退けています。形式上は売買であっても、実際には利用者が給与日に“売却額+手数料”を返済する構造である点が重視され、貸付に該当すると認定されました。
この判決は給与ファクタリングの違法性を明確に示す重要な判断となりました。
判断根拠
最高裁が給与ファクタリングを「貸付」と判断した最も大きな根拠は、給与債権が法律上「直接払いの原則」によって厳格に保護されている点です。
給与は労働者本人に直接支払われるべきものであり、給与債権を第三者に譲渡したとしても、業者が企業に対して直接請求することはできません。結果として業者は、実質的には労働者から返済を受ける以外に資金を回収する方法がなく、支払いが滞ると厳しい督促が行われるケースも多数報告されています。
こうした実態から、給与ファクタリングは「債権売却」という形式を取っていても、実質は労働者に対する金銭貸付と変わらないと判断されました。そのうえ、貸金業登録をしていない業者がこれを行うことは貸金業法違反にあたり、給与ファクタリングは違法であるという統一的な評価が確立されています。
違法性のある悪質業者の見分け方
給与ファクタリングだけでなく、ファクタリングには、違法性のある業者が存在しているので注意しなければなりません。
違法性のある悪質業者には以下の特徴があります。
- 高い手数料を提示
- 分割払いの推奨
- 担保や保証人の要求
- 契約書の説明があいまい
高い手数料を提示
悪質な業者の典型的な特徴として、極端に高い手数料の提示が挙げられます。
通常、売掛金買取ファクタリングの場合、2%~18%、が相場です。悪質な業者では、30%以上の手数料を求めるケースがあります。
相場とかけ離れていると感じた場合、複数のファクタリング会社から相見積もりを取ることで、適正な手数料かどうかを判断することが重要と言えます。
分割払いの推奨
悪質なファクタリング業者は、分割で払えば大丈夫など、巧妙に誘導する傾向があります。
しかしファクタリングは、基本的に一括で支払わなければなりません。ファクタリングは売掛債権の売買であり、融資でないためです。
分割で支払いをすれば利息が発生します。分割払いは貸金業でしか認められていません。もし、分割払いを勧めてくる業者がいれば、違法性が高いため、即時に取引を中止すべきです。
担保や保証人の要求
ファクタリングの契約時に、担保や保証人を要求することは、認められていないので注意が必要です。分割払いで述べたように、ファクタリングは売掛債権の売買(譲渡)であり、融資でないからです。
原則ファクタリングで調達した資金は、売掛先が債務不履行に陥ったとしても、利用事業者が代わりに入金する義務を負っていません。
担保や保証人を求める行為は、貸金業法違反の典型であり、悪質業者を見分ける重要なポイントと言えます。
契約書の説明があいまい
ファクタリングの契約書には通常、債権譲渡契約の文言が示されています。しかし、売掛債権の譲渡契約であるにもかかわらず、その旨の記載がなかったり契約書の説明があいまいであったりする場合、違法性が高い業者である可能性が高いです。
ファクタリングの契約のつもりで署名したが、貸付であるケースがあります。ファクタリングの契約者に金銭消費貸借契約となっていないか十分確認することが重要です。
まとめ
給与ファクタリングは「債権売却」を名目としながら、実態が高金利の貸付と変わらない点が判例でも明確に示され、行政機関も強く注意を促しています。生活基盤を支える給与債権が不当な形で扱われることで、多くの利用者が返済困難に陥る事例も後を絶ちません。
一方、売掛金買取ファクタリングは、売掛債権を活用した合法的な資金調達方法として、早期資金化やリスク軽減というメリットがあります。ただし、市場には違法性の高い業者も存在するため、高額手数料やあいまいな契約説明、保証人の要求など不審な点があれば即時に契約を避けることが必要です。
資金調達は事業者の事業継続に直結します。仕組みとリスクを理解し、安心して利用できる方法を選ぶことが求められます。
そのため、実績や入金スピード、契約形態を比較し、自社に最適な事業者を選ぶことが不可欠といえます。
資金繰りの安定化と事業成長を両立するために、注文書ファクタリングを戦略的に活用していくことが重要です。



