個人事業主として事業を始めると、日々の業務だけでなく税金や申告といった事務作業も自ら管理する必要が生じます。

税金の計算方法や仕組みを正しく理解していない場合、本来不要な税金まで納めてしまう恐れがあります。そのため、あらかじめ税金の種類や税額がどのように算出されるのかを把握しておくことが重要です。

本記事では、個人事業主の基本的な定義から、所得税・住民税・個人事業税・消費税といった主要な税金の仕組みについて解説します。

また節税につながる青色申告や各種控除の活用方法についても紹介しますので、これから個人事業主として事業を始める方はもちろん、既に活動している方も、税務の基礎知識として参考にしてください。

そもそも個人事業主とは?

個人事業主とは、法人を設立せず、個人として事業を営む人のことです。

個人事業主を開始する際は、所轄の税務署に「開業届」を提出します。

業種に特別な制限はなく、飲食業や小売業、士業、ライターやデザイナーなど幅広く該当します。法人と異なり設立費用や維持コストがかからず、会計処理や手続きが比較的簡易である点が特徴です。

一方で、事業上の責任はすべて個人が負うため、資金繰りや税務管理を自ら行う必要があります。

以下では、個人事業主によく似た言葉である「自営業者」「フリーランス」についても解説し、どのように異なるのかについて紹介します。

自営業者との違い

個人事業主と同じ意味で使われる言葉として自営業者があります。自営業者もまた、日常的には同じ意味で使われることが多いものの、厳密にはニュアンスが異なります。

個人事業主は、税務署に「開業届」を提出し、個人として事業を営む人のことです。

一方で自営業者の場合、法人を設立して事業運営しているケースがあります。具体的には、家業の飲食業(法人)を継承した事業者や法人を設立した事業者が含まれます。

フリーランスとの違い

フリーランスもまた、個人事業主同様に使用される言葉です。フリーランスは「働き方」を示す言葉で、特定の組織に属さず、自分のスキルを提供して報酬を得る人を指します。

一方、個人事業主は税法上の区分であり、開業届を提出した事業者です。

フリーランスとして活動していても、開業届を出せば個人事業主となり、青色申告や経費計上のメリットを受けられます。

逆に、副業として仕事を受けているものの、開業届を提出していない人は税務上の個人事業主には該当しません。

個人事業主は法的・税務上の呼称であり、フリーランスは働き方のスタイルを表す概念である点が大きな違いです。

個人事業主が納付する税金の種類

個人事業主として事業を行う場合、法人とは異なる税金を複数納付する必要があります。代表的なものとして、以下の税金があります。以下では税率や計算方法について解説します。

  • 所得税
  • 住民税
  • 個人事業税
  • 消費税

所得税

所得税は、個人事業主が事業活動によって得た所得に対して課される国税です。

売上そのものではなく、収入から必要経費を差し引いた「所得」を基準に課税されます。

累進課税制度を採用しているのが所得税の特徴で、所得金額に応じて税率が段階的に高くなります。そのため、どの税率が適用されるかを正しく把握することが、納税額を理解するうえで欠かせません。

所得税の税率

所得税は累進課税制度を採用しており、所得が増えるほど高い税率が適用される仕組みです。課税所得195万円未満の5%からスタートし、最高税率は4,000万円超で45%となります。

さらに、計算結果に対して復興特別所得税(2.1%)が上乗せされます。個人事業主の場合、経費の計上や各種控除の活用によって課税所得が大きく変動するため、適切な帳簿付けが重要です。

【所得税の速算表】

課税される所得金額 税率 控除額
1,000円 から 1,949,000円まで 5% 0円
1,950,000円 から 3,299,000円まで 10% 97,500円
3,300,000円 から 6,949,000円まで 20% 427,500円
6,950,000円 から 8,999,000円まで 23% 636,000円
9,000,000円 から 17,999,000円まで 33% 1,536,000円
18,000,000円 から 39,999,000円まで 40% 2,796,000円
40,000,000円 以上 45% 4,796,000円

(引用:国税庁|No.2260 所得税の税率

所得税額の計算方法

所得税は、事業によって得た収入から必要経費を差し引き「事業所得」を算定します。さらに基礎控除や社会保険料控除、青色申告特別控除などの各種控除を差し引き、残った金額が課税所得です。

この課税所得に所得税の速算表を用いて税額を算定し、最後に復興特別所得税を加算することで最終的な所得税額が確定します。

控除の活用により、課税所得を適切に圧縮すると納税額の軽減につながるため、控除の確認は必須です。特に青色申告は控除額が大きく、節税効果が高い点が特徴です。

住民税

住民税は、都道府県や市区町村といった自治体に納める地方税で、前年の所得をもとに課税されます。

住民税は、所得に応じて負担が決まる「所得割」と、所得の多寡にかかわらず一定額が課される「均等割」で構成されています。また、原則として前年の所得を基準に翌年課税されるため、売上が伸びた翌年に税負担が増える点にも注意が必要です。

住民税の税率

住民税は、個人の所得に応じて課される「所得割」と、所得に関わらず一律で課される「均等割」で構成されています。

所得割の税率は全国一律10%で、内訳は都道府県民税4%、市区町村民税6%です

一方、均等割は住んでいる自治体によって金額が異なります。

例えば東京都の場合、個人都民税の税額は1,000円、個人区市町村民税の税額は3,000円です。加えて、令和6年度より、森林環境税が一人年額1,000円課税されます。

住民税の計算方法

住民税の計算は、まず課税所得金額(事業所得から基礎控除や社会保険料控除、青色申告特別控除などの各種控除差し引いた金額)を算出します。

この金額に10%を乗じることで所得割が決まります。さらに均等割を加算すると、住民税の総額が確定します。

住民税には「特別徴収」と「普通徴収」があり、個人事業主は普通徴収により納付するのが一般的です。

個人事業税

個人事業税は、一定の事業を営む個人事業主に対して課される地方税です。すべての個人事業主が対象となるわけではなく、法律で定められた業種に該当する場合のみ課税される点が特徴です。

個人事業税の税率

個人事業税は、特定の事業を営む個人事業主に課される税金で、すべての業種が対象となるわけではありません。対象となるのは「第1種事業」「第2種事業」「第3種事業」に区分された70業種で、税率は事業の種類によって異なります。第1種事業は5%、第2種事業は4%、第3種事業は5%(あるいは3%)が適用されます。

ただし、個人事業税には「事業主控除」という仕組みがあり、年間290万円までの所得には課税されないため、事業を開始したばかりの小規模事業者は課税対象とならないケースも少なくありません。

個人事業税の計算方法

個人事業税の計算は、まず「所得金額-事業主控除290万円」で課税標準額を求めます。

次に、自身の事業区分に応じた税率(3%、4%または5%)を乗じて税額を算定します。

消費税

消費税は、商品やサービスの取引に対して広く課される税金で、個人事業主にとっても重要な税目のひとつです。

ただし、すべての個人事業主が必ず納税するわけではなく、一定の要件を満たすかどうかによって「課税事業者」と「免税事業者」に区分されます。

この区分によって、申告や納税の義務が大きく異なるため、事業規模や取引内容に応じた判断が欠かせません。

課税事業者と免税事業者の違い

消費税における最大のポイントは、自分が「課税事業者」か「免税事業者」かで納税義務の有無が変わる点です。

免税事業者は、前々年の課税売上高が1,000万円以下である個人事業主が該当し、消費税の申告・納税義務はありません。

一方、課税事業者はこれを超える事業者や、インボイス制度に対応するために自ら課税事業者を選択した事業者が該当します。

課税事業者になると、売上で受け取った消費税から仕入・経費で支払った消費税を控除し、その差額を納税する「仕入税額控除」が適用されます。

消費税の税率と計算方法

現在の消費税率は10%で、食品などの特定品目には軽減税率8%が適用されます。

課税事業者は、売上に含まれる消費税額(売上税額)から、仕入や経費に含まれる消費税額(仕入税額)を差し引いて納税額を計算します。算式は「売上税額 − 仕入税額 = 納付税額」です。差額がマイナスであれば還付されることもあります。

個人事業主の節税対策5選

個人事業主として事業を続けていくうえで、税金への理解と節税対策は欠かせません。同じ売上や所得であっても、制度を正しく活用できるかどうかで、手元に残る資金には大きな差が生じます。

ここでは、比較的取り組みやすく、実務上の効果も高い代表的な節税対策を5つ紹介します。

  • 青色申告を行う
  • 控除申告を行う
  • 経費の計上を忘れないようにする
  • 小規模企業共済へ加入する
  • 倒産防止共済へ加入する

青色申告を行う

青色申告は、個人事業主が最も効果的に節税できる制度のひとつです。正規の簿記方式で帳簿をつけ、期限内に申告することで「青色申告特別控除(最大65万円)」を受けられます。

他にも、家族への給与を必要経費にできる「青色事業専従者給与」や、赤字を最大3年間繰り越せる「純損失の繰越控除」も利用できます。

白色申告との違い

白色申告は、青色申告に比べ手続きが簡易である一方、節税メリットはほとんどありません。白色申告では「青色申告特別控除」を受けられず、家族に支払う給与も実際より少ない額しか経費にできません。

また、赤字を翌年以降に繰り越す制度も利用できないため、事業が不安定な初期ほど青色申告との差が大きくなります。

控除申告を行う

控除申告を適切に行うことは、個人事業主にとって大きな節税効果をもたらします。所得税・住民税は「所得 - 各種控除」で課税所得が決まるため、控除をどれだけ活用できるかで納税額が大きく変わります。

代表的な控除には、基礎控除・社会保険料控除・生命保険料控除・小規模企業共済等掛金控除などがあります。また、医療費控除や寄附金控除(ふるさと納税)も活用できれば、課税所得の圧縮につながるでしょう。

経費の計上を忘れないようにする

個人事業主にとって、経費の計上は最も基本的で効果の大きい節税対策です。

経費とは、事業の遂行に必要な支出のことで、これを正しく計上することで課税所得を大幅に抑えられます。

代表的な経費には、事務所家賃や通信費、消耗品費、交通費などがあります。また、自宅兼事務所の場合は家賃や光熱費の一定割合を按分して経費に計上できるため、領収書や明細は日頃から整理しておくことが大切です。

小規模企業共済へ加入する

小規模企業共済は、個人事業主や小規模企業の経営者が「退職金」を自分で積み立てられる制度です。掛金は全額が所得控除の対象となるため節税効果が非常に高い点が特徴です。

月額掛金は1,000円~7万円の範囲で自由に設定でき、事業の状況に応じて増減もできます。また、廃業時や退職時に共済金として受け取れるため、将来の備えとしても有効です。

倒産防止共済へ加入する

倒産防止共済(正式名称:中小企業倒産防止共済制度〈経営セーフティ共済)は、取引先の倒産による連鎖倒産を防ぐための制度で、個人事業主も加入できます。掛金は月5,000円〜20万円まで自由に設定でき、累計800万円まで積み立て可能です。

最大の特徴は、掛金が「全額損金(必要経費)」として扱われる点で、節税効果が非常に高いことです。また、取引先が倒産した際には掛金の10倍(最高8,000万円)まで借入ができ、資金繰りの緊急対策としても優れています。

まとめ

個人事業主として安定した事業運営を続けるためには、税金の仕組みと節税策を正しく理解し、日常的に適切な帳簿管理を行うことが欠かせません。

所得税や住民税、個人事業税、消費税といった税負担は、控除の活用や青色申告によって大きく変わります。また、経費の計上、小規模企業共済や倒産防止共済の加入など、将来への備えと節税を同時に実現できる制度も多く存在します。税務への理解が深まれば、資金繰りに余裕が生まれ、事業の継続性や成長に直結します。

日頃から情報を更新し、自身の事業に合った最適な税務運営を心がけることが、個人事業主としての成功を支える重要なポイントといえるでしょう。